第28章 応援なんかいらない《後編》
「うわ、顔こっわ!」
デスクに投げ出したバインダーからひらりと床に落ちた数枚の紙切れ、それを拾った山田の眉が不思議そうに顰められる
「コスチュームの説明書? え、オマエの?」
「返せ」
「拾ってやったのにその態度ォ!?」
他のヒーローとは比べ物にならないほど地味な色とシルエット、何の変哲もない真っ黒のつなぎに見えるそれにも一応存在している説明書がひらひらとはためく
「なに、着方わかんなくなったとか!?」
げらげらと笑う顔を引っ掴んでそれを取り上げると、にやりと口の端を上げた山田が片目を細めた
「でもま、コレ貰って嬉しいヤツも居るよなァ」
・・例えば、心操とか?
こういう時だけ無駄に勘のいいこの男は「あーあと緑谷も!」、そう付け加えるとにやにやとこちらを見つめて
無言でそれを抽斗に仕舞った俺に呆れたような溜息をついた
「勿体ぶらずにあげりゃあいいのに」
きっと小躍りして喜ぶぜ、なんて全く想像のつかない適当な事を垂れると鼻歌を歌いながら授業の準備を始める
「まだ正式に編入が決まったわけじゃない、
油断を招く」
吐き捨てるようにそう呟くと、ドアへと歩き出した山田が前を向いたまま笑った
「そんな事で油断するヤツじゃねェって、
オマエが一番分かってるくせに」
だから持ち歩いてんだろ?、そう言って去っていく背中に積らせた苛立ちを乗せ舌打ちをすると、向かいの席でビクッと肩を震わせる人影に気が付いた
「・・オールマイトさん」
「なっ、何だい、相澤君・・!」
「昨日あなたが作成した書類、何ですかあれは」
がさごそと鞄を漁り、昨晩山ほど付箋を貼った束を突き出すと、震える手が恐る恐るそれを受け取った
「修正、今日中にお願いしますよ」
「ハ、ハイ・・」
駄目だ、全く以てよろしくない
今晩は早めに休ませてやろうと思っていたのに
こんな調子じゃ、俺はきっと今日も夜を長引かせてしまう
「相澤くんのこと、その、応援しています・・」
落ち着こうと目を閉じると、柔らかな緑を背景にした彼女が笑って
優しく吹いた風が長い髪と制服のスカートを揺らしたのを今でも鮮明に覚えている
窓の外には寂しく寄り添う木々、
あと数時間は見られそうにないその顔を思い浮かべると、青い葉の揺れる季節が初めて待ち遠しいと思った