第25章 反撃は二人だけの夜に
ゆっくりと伸びをして立ち上がる
脱いだ白衣を椅子に掛け、鞄からお財布を取り出したその時、部屋の扉が静かに開いた
「今、大丈夫か」
「相澤先生、どうしました?」
まさか怪我でもしたのかと駆け寄ると、さっと部屋を見渡した彼が私に口付ける
「、ちょっと・・!」
「ここでメシ食っていいか」
彼の手には菓子パンでも入っているのか、白いビニール袋がゆらゆらと揺れて
「心底面倒だが、お前と過ごすなら悪くない」
今日ばあさん居ないだろ、バツが悪そうに顔を伏せた相澤くんの耳が赤く染まって、思わず吹き出してしまった
「、相澤先生らしくないですね」
「・・今ちょっと精神的にアレなんで」
「っふふ!今日だけですよ」
温かいコーヒーとサンドイッチを買って部屋に戻ると、相澤くんはすでに食べ終えていた
「あれ、もう戻られますか?」
「そんなに邪険に扱わなくたっていいでしょう」
溜息をついた彼にコーヒーを手渡すと少しだけ上がったその眉
「いつも私が話しかけてもそっけないくせに」
「・・・」
黙り込んでコーヒーを飲む彼に私はまた吹き出して
でも結局最後にはその不安気な顔を晴らしたくて彼の欲しい言葉を紡ぐ
「ねぇ相澤くん、愛してる、大好き」
「離れたくないからずっと此処にいて」
覗き込んで微笑むと、彼はまた目を伏せてその顔を捕縛布の中に埋めた
「・・そろそろ戻ります」
「ふふ、もう行っちゃうんですか?」
「だいぶ、良くなったんで」
扉へ向かうその足取りが先程よりもしっかりしているように見えて、こんな可愛い一面があったのかと私はまた笑みを零す
「あ、相澤先生」
思いついて呼び止めると彼がゆらりと振り向いて
その顔は既に無表情、いつもの”相澤先生”だ
「週末、靴を買いに行きたいのですが、」
外出届を出した方がいいですか?、笑いを堪えて首を傾げると、その顔には苛ついた怖い笑みが浮かんだ
「・・俺も買いたい物があるのでご一緒します」
「ふふ、それは合理的ですね」
「それ以上言うと、今晩後悔しますよ薬師先生」
先程より少しだけ、乱暴に扉を閉めた彼が廊下に足音を響かせる
今夜の反撃はかなり怖い、我ながら命知らずだと苦笑して
飲みやすい温度になったコーヒーを口に運びながら、遠ざかっていくその音に耳を澄ました