第23章 種明かしは急がない
「・・嫌なことして、ごめん」
「ううん、元はと言えば私が逸れたから・・」
それに何一つ嫌なんかじゃなかったよ、そう言って照れ臭そうに微笑んだ彼女の髪で夏の夜に菫が揺れた
「来年も一緒に来ようね?」
「お前がまだ俺を好きだったらな」
「相澤くんだって、来年も私を好きかわからないくせに」
「・・分かるよ」
アイツに告白されてどう思ったんだ、なんて
野暮なことはもう、いい
「卒業したらさ、」
「うん」
「・・いや、なんでもない」
先を約束する言葉が聞きたい、なんて
そんな不確定なもの、全く以て俺らしくない
「ふふ、変なの」
“来年もまた二人で此処に来られたら”、
それくらいが今の精一杯だと夜空を見上げた
「あともう一つ、」
「?」
「・・その浴衣、すごく似合ってる
めちゃくちゃ、可愛い、よ」
アイツが連発した「可愛い」を打ち消すように柄じゃない言葉を並べると、彼女が真っ赤な顔で目を潤ませる
「言って、くれないのかと思った」
そう言って幸せそうに微笑むと、俺の手にそっと指を絡めた
「写真、撮ってもいいか」
「一緒になら」
「え」
———
「おっ、めぐ!昨日は楽しかったな!」
「白雲くん、昨日は本当にありがとう」
画面の中で笑う浴衣姿を穴が開くほど見つめた夜は長くて
俺がシたいこと全部、って言ってたよな・・なんて、にやけた口元を手で隠す
眠い目をこすり校門を抜けると、仲良さげに肩を並べる二人の姿が見えた
「来年もまた三人で回ろうなー!」
「ふふ、今度は三人で線香花火対決だね」
昨日の今日で早速コレかよ・・
相手はあの無自覚人たらし、あんなのが本気になったら到底勝ち目はない
騒がれる面倒臭さと必要な牽制を天秤にかけた俺は、歩く速度を上げると二人の背後に近づいた
「・・おはよ」
そう言って彼女の頬に軽く口付けると
二人は赤面し、後ろを歩いていた山田が爆音で叫んだ
「白雲、今後こいつと話したい時は俺を通せ」
「っ、相澤くん!」
紅い顔で呆然とする彼女の手を引き、すたすたと校舎への道を進む
「HEYHEY朧ォ!お前何やらかしたんだよ!」
「え!?俺なんもしてねェよ!」
「相澤めちゃくちゃキレてんぞ!面白ェ!!」
「俺が聞きてェって!待てよショータ!」