第21章 苦手を克服できたのは
「・・毎日寒くて、本当嫌になっちゃう」
「暑いよりはマシだろ」
そうかなぁ、そう呟いた彼女が両手でマグカップを口へ運ぶと紅茶の甘い香りが漂った
「夏になったら、また相澤くんとお祭りに行き
たいな」
「あったな、そんなこと」
楽しかったよね、そう懐かしそうに微笑んだ彼女に
そうだな、と気のない返事を返す
「あ、さては覚えてないんでしょ・・!」
あまりいい思い出じゃ無いんでな、という嫌味をどうにか飲み込み
また気のない返事を返すと彼女の頬が膨れた
「・・私はすごく鮮明に覚えてるのに」
眉を顰めた彼女を受け流し、その膝に頭を乗せると横に置かれた本が見える
「お前、英語の本なんて読むのか」
あ、これ?と彼女が手にしたカラフルな表紙、
ベストセラーと帯に書かれたそれはどう見ても仕事関係の本では無さそうだ
英語は苦手だと思ってたよ、そう言って彼女を見上げるとその顔が少し照れたように笑った
「昔はすごく苦手だったんだけどね」
山田くんに教えてもらったことがあったでしょ?
懐かしそうに微笑んだ彼女に眉間の皺が深くなる
「悪かったな、教えてやれる教科がなくて」
不機嫌を隠さずその本を取り上げると彼女は可笑しそうに肩を震わせた
「ふふ、こちらこそ普通科でごめんね」
「全くだ」
ヒーロー基礎学から叩き込んでやろうか、そう言うと彼女は声を出して笑った
「相澤くんと二人の時は、勉強どころじゃなかったから」
俺の髪を優しく梳きながら、目を伏せて照れる顔
いとも簡単に自分の機嫌が直っていくのが分かる
「どうだかな」
「もう、覚えてるくせに」
「お前が“死んじゃいそう”だったことは覚えてるよ」
そう言ってにやりと笑うと、口をへの字にした彼女が俺の顔を思いっきり抓った
「全然痛くないな」
「て、手加減してるだけ!」
「そりゃどうも」
すっと身体を起こして唇を重ねると逃げる舌を捕まえ絡ませる
「ちょ、っ、んん・・」
もうこんなもんじゃ足りない、か
「なぁ、今のお前は何をされると“死んじゃい
そう”になるんだろうな」
今晩色々試してみるか、そう囁くと紅い顔が俺を睨み、華奢な両手が俺をソファから突き落とした
「もう、あっち行って!」
「力業ならすぐに教えてやれるぞ、来い」