第10章 初めてばっかりの日
岩泉先輩がこんなに優しい表情をするなんて
誰も教えてくれなかった。
それも、その笑顔は私に向けてもらえていて。
………神様、
私はもうすぐ死ぬのでしょうか?
そのくらい、本当に凄い勢いで幸せ貯金を消費している。
なんなら実はもう、借金をしてるんじゃないのか?
それだったら、ちゃんと返せるように
いや、それ以上に一生懸命生きていくので
どうかこれからも、生きている間は
岩泉先輩の隣にいさせて下さい。
「はじめ、くん」
「おう」
よく出来ました、と言わんばかりの
今度はお兄ちゃんみたいな笑顔
「大好きです」
「……………っっ!」
「顔、真っ赤です」
腕で顔を隠すようにして、
私から視線を逸らしている岩泉先輩が目の前にいる。
何より、私に対して顔を赤くしてくれている。
息が、上手にできなくなる。
「………はぁ。俺も」
「ほんとに?」
ほぼ毎日一緒に帰っても、
"付き合ってる" って言葉を聞いても、
それでもまだたまに、信じられない気持ちになる。
「お前のこと、こんなに好きになるなんて思ってなかったけど。
だけど、と話してたら
………の笑った顔見てたら。
いつの間にか、すげー好きになってた」
あぁ、もう
「先輩、ほんとズルいです」
「先輩?」
「………はじめくん」
岩泉先輩の名前を呼ぶ度に
どんどん好きが溢れてくる。
溢れすぎて、どうしようもなくて
思わずギュッと目をつむる。
………ふっ、と
岩泉先輩から空気が漏れる音が聞こえて、
頬に冷たいものが触れて
その次に、唇に
柔らかいものが触れる。
それが何なのか、わかってしまって
身体と、あとやっぱり心臓が
ギュッとなった。