第9章 【疑惑の渦】
新学期から1ヶ月もたつと、授業内容もだいぶ複雑化してきた。クリスは『占い学』『魔法史』『魔法薬学』『マグル学』『天文学』の5教科しか取っていなかったが、それでも授業についていくのは大変だったし、宿題をこなすのにこまれでの倍時間がかかった。
だからクリス以上に授業を取っているハーマイオニーはもちろん、クィディッチの練習に時間を取られているハリーやロンはよく徹夜で勉強をしていた。
「………っぷは!」
「この状況で遊んでいられるとは、余裕だなロン」
同じテーブルで宿題をしていたロンが、杖を片手に息を止めながら百面相をして遊んでいたから、思わずクリスはレポートを書いていた手を止めてつっこんでしまった。
するとロンが苦々しい顔で反論した。
「違うよ!無言呪文の練習だよ!明日の『呪文学』までに呼び寄せ呪文を無言で出来なきゃ、宿題が倍になるんだ!」
「無言呪文って、杖を振るだけで術を発動させるアレか?」
「そうだよ、よくダンブルドアが使ってるだろ。今それの練習してるんだ」
そう言って、ロンはテーブルの反対側にある辞書を呼び寄せようと杖を構えたが、辞書は全く動く気配がなかった。
そう言えば4年生の時に、例の墓場で詠唱をせずに精霊を召喚しかけた事があったが、あれと同じようなものなのだろうか。
ちょっと好奇心に駆られたクリスは、同じように辞書に向かって杖を構え、静かに目を閉じた。
とにかく、大切なのは集中力とイメージだ。4年生の時のあの感覚と、聖マンゴ病院で教えてもらった体に張り巡らされた魔術回路に、全神経を集中させて杖を振った。
すると、シュッ、と勢いよくクリスの手の中に辞書が飛んできた。それを見て、ロンだけでなくハリーもぽかんと口を開けた。
「なんだ、意外と簡単だな」
「何で出来るの?クリス、授業受けてないよね?」
「う~ん、説明しづらいが……ようはイメージだ、イメージ!指先の魔術回路まで魔力を送り込むような――」
「ごめん、今難しい事言わないで。頭が混乱する」
ハリーが見よう見真似で同じような事をしていたが、やっぱりダメだった。
その点、ハーマイオニーは完璧だった。クリスのように時間をかけて集中しなくとも、スウッと遠くにあった羽ペンを呼び寄せて見せた。