第6章 【空を仰ぐ】
「ミス・グレイン。貴女とは先ほどお話ししましたので、言うことはありません。ミスター・ポッター、彼方は何故『魔法薬学』の授業を取らないのです?昨年の進路相談のとき、闇払いになるのが彼方の希望だと伺いましたが?」
「それは、試験で「優・O」を取らないと受講できないと聞いたので……」
「それはスネイプ先生が『魔法薬学』を教えていた昨年までです。今年からはスラグホーン先生に変わったので、「良・E」でも受講可能です」
それを聞いて、ハリーの顔がたちまち明るくなった。ロンと嬉しそうに顔を見合わせると、2人はマクゴナガル先生に急遽『魔法薬学』の受講をお願いした。
授業に必要な教科書や大鍋など、用意していない物は一先ずスラグホーン先生から借りて、後ほどフクロウ便で届けてもらう事になった。
「やったなハリー!これで今年も君と同じ時間割だ!」
「これでとうとう6年目だね、今年も頼むよ相棒!」
新しい時間割表を眺めながら、ハリーとロンはハイタッチを交わした。2人のこういうところは、素直にほほえましいと同時にうらやましいと思う。
そんな盛り上がる2人の傍に、ハグリッドがニコニコ笑いながらやってきた。その瞬間、2人の笑顔が凍り付いた。
「よお、お前ぇ達。元気だったか?」
「や……やあ、ハグリッド……」
「もちろん、元気……だったよ」
先ほどまで、まるで夏の日差しの下に居るかの様な快活さだったのに、急に真冬の吹雪の中に放り出された様に2人の生気が萎んでいった。
そんな2人に構わず、ハグリッドは嬉しそうに話し続けている。
「グロウプが最近、色々な言葉をしゃべるようになったんだ!俺は近々あいつを『魔法生物飼育学』の助手にしようと思ってる」
「それは……良い事だね」
「来週が最初の授業だ!遅れねぇようにしとけよ、何しろスッゴイもんを用意してある!!」
「た、楽しみだなぁ……」
嬉しそうに去っていくハグリッドの背中に向かって手を振りながら、ハリーとロンが真顔で目配せしあっている。
急にどうしたんだろう、と、クリスが不思議そうに問いかけた。
「2人ともどうしたんだ?――ハッ、まさか!」
「……うん」
「ハグリッドの授業……取ってないんだ」
その消え入りそうな声を聞いて、クリスは魔法がかかった偽物だと分かっていても、空を仰がずにはいられなかった。