第6章 【空を仰ぐ】
ハリーが大広間にやって来たのは、ディナーの殆どが終わって皆で談笑しながらデザートを囲んでいる時だった。
出入口付近がざわついていると思って目をやると、ハリーが驚くべき早足でこちらに向かって疾走してきた。その顔は予想以上に怒りに満ちており、そればかりか血にまみれて汚れていた。
「ハリー!?いったいどうしたの!?」
「どうもしない」
「いやいやいや。その顔はどうかしてるって」
「血まみれだぞ、痛くないのか?」
ハーマイオニー、ロン、クリスの3人が心配そうにハリーの顔を見つめると、ハリーはやっと気づいたのか顔についていた血を乱暴に袖でぬぐった。
いったい何があったのだろう。様子を見る限りスラグホーン先生がやったとは考えにくいから、やはりスネイプが原因なんだろうか。
詳細を聞きたかったが、今のハリーはスネイプのスの字でも出したら噛みつきそうなほど殺気が漂っていたので、3人はあえてそこを避けた。
「長いことスラグホーン先生につかまっていたみたいだけど、何だったの?」
「他のみんなと一緒だよ。僕が本当に『選ばれし者』なのかどうなのか知りたいって」
「で、何て答えたの?」
「新聞のでっち上げだって言っておいた」
「まあ妥当だな」
クリスがそう締めくくると、ハリーはそれ以上何か言われる前に、目の前のデザートにがっついた。
結局、何故ハリーが顔面血まみれで遅れて登場したのか訊けぬままデザートの時間も終わり、ダンブルドアが再び立ち上がり挨拶を始めた。
「皆、良くぞ戻ってきた!!」
ダンブルドアは教職員テーブルの中央で、いつもの様に両手を広げて生徒達を歓迎した。
その時、ローブの袖から見えたダンブルドアの右手が、まるで焼け焦げたかの様に真っ黒で、今にも崩れ落ちそうなくらい脆く見えた。
それは明らかに普通ではなかった。事故や怪我の類ではなく、明らかに強力な呪いを受けた痕だ。
もちろんそれに気づいたのはクリスだけではない。各寮のテーブルから、ざわめきが起こっている。
ダンブルドアはいつもの様に柔和な笑みを浮かべ、皆の動揺を鎮めると何事もなかったかのように話しを続けた。
「さてさて、腹は膨れたかの?早速じゃが今学期の注意項目について話そう――」