第3章 【寂れたダイアゴン横丁】
「学校が始まる前に貴女に会えて良かったわ、クリス」
「おば様、あの……」
「いいこと?心して聞きなさい。ダンブルドア達とは今すぐ手を切りなさい。さもなければ貴女まで死ぬことになるわ」
抱きしめられた腕が温かくて、クリスは一瞬答えにつまった。しかし、その話しには乗れない。ヴォルデモートを倒し、両親とセドリックの敵を討つ。それはもう心に決めた事だ。
「おば様……気持ちは嬉しいんですが、私はおば様達と一緒にはなれません」
「どうして!?貴女は闇の皇帝の恐ろしさが分からないの!?逆らえば――」
「――私は、父様の仇と道を同じくする事は出来ません」
抱きしめてくれた腕をそっと解くと、ナルシッサおば様の泣きそうな顔が見えた。その顔を見ると、自分まで涙が出そうなるくらい胸が痛んだ。
おば様の大きな目に涙が溜まり、瞬き1つで今にも零れ落ちそうだった。
「お願いよ、クリス。私にこれ以上家族を失う辛さを味合わせないで。それでなくともドラコが――」
「ドラコが……?」
「時間だ!おしゃべりは止めて貰おうか!」
シリウスがついたての向こう側から姿を露わす寸前、ナルシッサおば様は素早く涙をぬぐうと、何事もなかったかのようにクリスから離れ、仮面の様な冷たい表情に戻った。
シリウスがクリスを庇う様に間に入ると、おば様はサッとドラコを連れて出入口に向かった。
「ドラコ、行きましょう。……クリス、決断を間違えないように」
それだけ言うと、2人はマダム・マルキンの店を後にした。
マルフォイ親子が去ったのを見ると、それまで大人しくしていたハリー達が勢いよくクリスの元にやって来た。
「いったい何だったの?クリス」
「ただ……自分たちの元に来いって言われただけだ」
言いながら、クリスは疑問に思った。
……いや、本当にそれだけだったか?あの時ドラコがどうとか、何か言いかけていたが。
昔からナルシッサおば様は家族を大切にしてきた方だが、よく考えると少し言動がおかしくなかっただろうか――。
「クリス、大丈夫?」
「あ……ああ、大丈夫だ」
ハーマイオニーが心配そうにクリスの顔を覗き込んだ。クリスは心配させまいと笑顔を見せたが、上手く笑っている自信は、残念ながら殆どなかった。