第21章 【あの約束をもう一度】
「シリウス、走りながら聞いてくれ。ダンブルドアが殺された、やったのはスネイプだ」
クリスが冷静に事実のみを伝えると、シリウスは更に加速した。
戦闘であちこち壁が壊れ、足場が悪くなっていても、シリウスの足は平然とそれを飛び越え、更に流石は「元・悪戯仕掛人」と言えるほど近道を使い分けて、遂に先頭を走っていたハリーに追い付いた。
「悪い、ハリー!先に行くぞ!!」
ハリーの先には2つの影が……スネイプとドラコの影があった。その2つの影は、校門に向かって一直線に走っていた。
校門を抜ければ『姿くらまし』が出来る。そうなったら終わりだ。
クリスにはもう殆ど力が残っていなかった。運よくシリウスが背中に載せてくれなければ、ドラコを追うなど夢のまた夢だっただろう。
それでも、運だろうが何だろうが、自分は今ドラコを追いかけている。それが全てだった。
「行くな、ドラコーーッ!」
全てを振り絞る様に、クリスはあらん限りの力で叫んだ。するとドラコと思わしき影がピタリと足を止めた。
雲の切れ目から突然現れた三日月に照らされて、ドラコの姿が見えた。光を受けたプラチナブロンドがキラキラと輝き、青白い肌は闇夜の中でよく映えた。
やおら振り返ったドラコは、静かに唇を動かした。
「……さよならだ、クリス」
「っ――!」
その一瞬の隙を突いて、ドラコは一歩校門の外に出るとパチンッと言う「姿くらまし」独特の音と共に消えてしまった。
それを確認したのと同時に、全ての力を使い果たしたクリスは、とうとうその場で気を失った。
その間際にクリスが最後に見たのは、月夜に照らされた彼の人の美しい一筋の涙だった。