第19章 【恋人たち】
「ふ、ふふ――くくく、ははは……はぁーーっはっはっはっは!!!」
シンと静まりかえった廊下に、狂ったようなクリスの笑い声が響き渡った。
嗚呼、なんて滑稽なんだろう。全く滑稽過ぎて腹の底から笑みが湧いてくる。
全てパンジーの言う通りだ、“私が居るから”ドラコが不幸になる。そんなの、“こちらの道”を選んだ時から分かっていた事じゃないか。
それでも――
『何があっても――私が何者でも、離れていかないって誓ってくれるか?』
『……誓うさ。何があっても、僕だけは君の味方だ。当たり前だろう』
「――ドラコ、すまない……」
喉の奥から絞り出した言葉に、どれほどの価値があったのだろうか。
遠いあの日、禁じられた森で交わしたあの約束を違えたのは、自分からだったというのに――。
* * *
……誰かが泣いている?あの声は、クリスか?
いや、クリスはこんな風には泣かない。何か嫌なことがあると、拗ねて自分の部屋に閉じこもってしまうんだ。
だから僕がいつも機嫌を取って、外に出してやらなきゃいけない。
でも時折、僕でさえ手の届かない存在になってしまう。その時のクリスはこの世のものとは思えない程美しいけど、クリスをそんな悲しい場所に置き去りにはできない。
だってクリスは僕の――……
「気が付いた、ドラコ?」
「……パンジー?君だったのかい?」
重い瞼を開くと、最初に飛び込んできたのはパンジーの姿だった。クリスの訳がないって分かっていた筈なのに、どこか落ち込んでいる自分がいる。
「どこか痛むところはある?私に何でも言ってちょうだい」
「クリスを……知らないかい?」
「……アイツがどうしたの?」
「どこかで泣いている気がして……僕は……」
そこまで言うと、また瞼が重くなって僕は目を閉じた。
だから僕は気づかなかった。力の入らない僕の手を必死に握りながら、涙を流しているパンジーのことを。
「どうしてっ……どうしてアイツじゃなきゃ駄目なの?私だって……私だって、こんなに貴方を愛しているのに!!ねぇ……答えて、ドラコ?」