第14章 【DDD】
そこから先、クリスはあまりトワイクロスの話しを聞いていなかった。さっき見たドラコの顔が、いつもより真っ青でやつれていたからだ。元から血色の良い方ではなかったが、あれは明らかに様子がおかしい。
チラチラ横目でドラコの様子を伺っていると、いつの間にか説明が終わって生徒達は足元に設置された円の前に立っていた。
「『姿現し』に大切なのは3つのDです。どこへ、どうしても、どういう意図で。これをしっかり頭に入れて下さい。それでは第1ステップ、どこへ――」
クリスが懲りずに横目でドラコを見ていると、そのすぐ後ろにハリーが立っている事に気づいた。いつの間に移動していたんだろう。
「第2ステップ、どうしても――」
この位置からはよく聞こえないが、どうやらハリーがドラコに何か小声で話しかけているようだった。クリスは聴覚の殆どをハリーとドラコに向けた。
気になる、どうにかして話しを聞くことが出来ないだろうか……。
「第3ステップ、どういう意図で――3、2、1、ハイ回って!」
ハリーとドラコに気を取られすぎていて、クリスは全く準備が出来ておらず、半ばやけくそで目をつぶってその場で回転した。すると一瞬体がゴムのように伸び縮みしたかと思うと、次の瞬間バランスを失って尻餅をついた。
「うう、痛ぅ……」
「……おい」
「え?……クリス?」
尻の痛みと共に、聞き覚えのある声がした。目を開けると、何故かハリーが目の前にいた。そして尻の下にはドラコがいた。
2人の会話に気を持って行き過ぎた所為なのか、どうやらドラコの上に「姿現し」してしまったらしい。クリスが何か言う前に、大広間からどよめきが起こった。
「えー……円の中ではありませんでしたが、一応成功のようですね」
どよめきが大爆笑に変わるまで、時間はかからなかった。
まさかこんな事になるとは思っていなかったクリスは、顔を真っ赤にしてドラコの上から飛び退いた。
「す、すまんドラコ……」
ドラコは何も言わずに立ち上がり、クリスを無視した。ハリーは笑いたいのを一生懸命こらえてぷるぷる震えていた。
顔から火が出る思いで元の場所に戻ったクリスは、その後何回やっても『姿現し』が成功することはなかった。