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SketchBook【R18】

第12章 Sketch4 --恋人



「優しくして甘やかす」

耳元で囁きながら香奈江は弛緩した体を俺に預けた。
香奈江の未来の為にこうするべきでは無いと分かっている。


「毎日美味いもん食って笑って。 だから香奈江」


だけど離したくなかった。

連れて行くな、行ってしまうなと心の底から懇願する。


「す、き、」
「香奈江」


その言葉に目を見開いた。
分かってるのか、そう言う前に香奈江が涙声で訴えてくる。


「ごめんね。でも私、やっぱり耐えられそうにない」


やはり自覚はあったのだろう。
本来ならば、ここに居る筈の無い彼女の体。

固く目を閉じた後、それでも香奈江を掻き抱く。


「雅、好き」


肩口や腕にきつく押し付けられた香奈江の声はくぐもっていた。


「それにどうしても、どうしても私は」


対して喉の奥から絞り出した俺の声は酷く間抜けに聞こえた。


「香奈江……馬鹿」

「うん、分かってる」


「……私、ちゃんと笑えてるかな?」


俺から体を離した香奈江はもう涙を止めていた。


「最後に雅に不細工な泣き顔を……のこしたく、ないから……」


「──────好きだよ」


その言葉が、届いたのかどうなのか。


腕の中の俺の宝物が泡沫のように消え、その手にぽたりと雫が落ちた。

時計を見ると丁度0:00。


微かな期待に周りを見渡し、肩を落とし空を見上げた。
暗い闇のキャンバスに殴り描いたような灰色の雲だった。


それから速度と量を増やした雨が一晩中降り続いた。





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