第9章 Sketch3 --また冬に会おう※
「どうでもいい。ただ大切な女には俺にとっては女でいて欲しいだけだ。あの晩のあんたは完璧な女だったし、今もそうだ。そして出来ればあんたにとっての俺は、あんなクリームみたいなものであればと俺は願ってる。これでいいか? 今回は隣町まで行ってたから歩きっ放しで疲れたよ」
凄くいい匂いだ。私の首元に顔を埋めた彼が一言そう呟き、何か答える間もなくがっしりと私を後ろ抱きにしたまま呑気な寝息を立て始めた。
最初の日に、あの唐木や大荷物を抱えて何時間も歩いてここに来る、そんな時こいつは何を考えていたんだろう。
しかし多分、訊いてもこちらが一体どんな顔をすればいいのかも困る様な、厄介な答えしか返って来ないに決まってる。
そして雪が溶けかけ春風が吹く前にケリーは自身の仕事が始まったと元の自分の住まいに帰って行った。
「何か土産が欲しければ、あと俺が恋しくなったら連絡をくれ」
そう言って手渡されていた彼の連絡先や住所が書かれた紙切れを私は屑入れに放った。
昨日二人でストーブや雪を掬うスコップなどといった冬の物を倉庫に仕舞っていた時、ケリーはチェスを大切に箱の中に収めて棚の上の隅に置いていた。
黙ってても彼は来るのだろうし、その時は彼の前で私はただの女に戻るんだろう。
それだけの話だ。
何よりケリーの言う通り。
「私たちの人生は長いからね」
[完]