第2章 Sketch1 --莉奈
「今晩は、莉奈」
「レニー(仮)! 遅いよ、眠い中待ってたのに!」
彼女のマンションの窓を叩くと、彼女は真夜中にも関わらず大声で愚痴りながら私を招き入れます。
ちなみにレニーというのは仮名で、その役をしているドラマの俳優が、私に似てるからという理由で彼女が勝手につけました。
私はその俳優をしりませんが、どちらにしろ私の本当の名前は、人間には発音出来ぬものなので構いません。
「貴女人を呼びつけておいて、いい加減に挨拶位覚えたらどうです?」
「こ・ん・ば・ん・は、レニー」
そんな、寝間着姿の寝癖までついた仏頂面で棒読みされましても。
いつもジャケットを欠かさず、礼節を重んじる私の世界では考えられません。
まだハタチそこそこの彼女は、それなりの身なりならば、きちんとした淑女にも見えるというのに。
「で? さっさと見せてください」
「………目、つぶってくれる?」
視覚が無くとも、香りがするので分かるんですけどね。
けれど私はいつも偉そうな彼女が目を逸らし、決まりが悪そうな表情をして、『お願い』してくる様を見るのは嫌いではないんです。
莉奈の肌はとても繊細で、金属や毒性のあるものに大変弱く、その刺激ですぐに痛み腫れてしまいます。
不純物という点では私も同じなんですが、何故か私とそれらは相反する作用を持つらしく。
どんな薬を使っても治らない莉奈のそれが、私には治療が可能なのです。