第6章 Sketch2 --解呪
『リュカは優秀だわ。 お父様と同じ学校だなんて』
『同じではないよ。 私と違い、特待生ときている』
兄が名門校に通う事が決まり喜んでいた両親。
『お前は自慢の息子だ』
『……大袈裟だよ 二人共』
何年か前、そう言ってリュカの頭を撫でていた父の姿を思い出した。
「……お父さんが、持っていて欲しい」
ミーシャが椅子から立ち上がり、自分の書棚の一番上に置いてある箱の蓋を開いた。
その中にしまっていた、小さな巾着に入れた細かい破片をダリルに手渡す。
彼が軽く頷いたあと、空のカップと一緒にそれを彼女から受け取り戸口へと戻る。
「他に困った事があったらいつでも相談するんだよ」
「ありがとう、お父さん」
ミーシャがそう言うとダリルは静かにドアを閉めて出て行った。
結局全ては話せなかった。
でもその一部を初めて人に打ち明ける事ができた。
そして私を心配してくれた。
それだけで、ミーシャはずいぶんと救われた気がした。
最近はずっと暗く怖い気持ちで夜を過ごしていたような気がする。
そんな時は、眠りの質も悪くなると聞いたことがある。
今晩はもしかして、夢を見なくて済むのかもしれない。
そんなささやかな彼女の願いもあった。