第16章 Sketch6 --水龍
そんなわたしを見ながら彼は言います。
「片時も離れず。 そんな訳にもいくまいし、お前の体もならさないと」
先程まで夫を受け入れていた所に青く半透明な、ぬるぬるとうごめくものを差し込まれて驚いてしまったのですが、これがあるとわたしは彼に触れていずとも、水中でも難なく過ごせるとの事でした。
それは細く短い穴子のような魚の形をして、動く事に不便はありませんでした。
そして夫の言うとおり、一人になったわたしでも初めて見る水の世界を楽しむ事が出来ました。
魚のように、とはいきませんが湖の端まで泳ぎ自分の背丈ほどもある魚にも出逢いました。
夫よりも大きな口を開けてこちらへ向かってきた時には、一瞬食べられるのかなんて思ったのですが、そんなわたしに声をかけてきました。
「こうやって口を開けて泳いでると、餌となる小さな生物が食べやすい」
「でも、水でお腹がいっぱいになりませんか?」
「そこはこう、餌を濾しとった後はエラの隙間から水だけが出ていく仕組みになっている」
そうなのですね。 そんな彼らの生態に驚きつつも、その大きな魚は長い髭を揺らして通り過ぎていきました。
そんなふうに夢中で辺りを散策していたのですが、湖面から顔を出すと日が暮れかけているのに気付き、わたしは慌てて夫の所に戻りました。
「沙耶。 今日は楽しかったかい?」
「遅くなってすみません。 ここを見て回るのが楽しくて、つい時を忘れてしまいました」
「構わないよ。 今日は皆が祝いに来ていた。明日は一緒に挨拶に行こう」
そうして夫はわたしを引き寄せ、その晩も大切そうにやさしく抱いてくれました。