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僕と彼女の声帯心理戦争

第1章 【プロローグ】宣戦布告


でも、世の中何があるか分からない。そしてここでは俺がみんなを率いる立場だ。…うん。だから彼等…旧世界の既得権益者達の石像を砕いて居るんだ。これは俺自身の理念の為だよ」
そう言うと、葵は沈黙した。

沈黙の間、羽京は司達の立ち位置から半径50m程度の位置に移動、陣取っていた。まるでかつて海中の音に耳を傾けていた様に、全ての神経を聴力に注力していた。

葵がここで引けば、自分の出る幕は無いだろう。どうかそうあって欲しい…もし引かなければ…羽京自身の心臓の音が、何時もよりも煩く感じた。

そして、葵は口を開く。
「…なら、司さん。貴方が私を殺して下さい」
「つっ…!?」
司、羽京。双方が息を呑んだ。予想外の言葉だった。
「確か科学王国の千空さん、という方も理想を違えたという理由で殺したんですよね?なら司さんは私も殺せますよ。私を殺して下さい」
笑顔だった。その台詞さえ無ければ、まるでサヨナラの挨拶を交わしたかのような、清々しいまでの笑顔だった。

「葵。念の為に聞いておくが…どうしてそこまで言えるんだい?」
「……だって、イヤじゃないですか。目の前で人が殺されるのを見殺しに出来る自分。そんなの、想像しただけで吐き気がします。
他人を見捨てて、のうのうと生きてる姿を想像するだけで私は私を許せないです」
「まさか、そんな理由で…?」
「はい〜。そんな理由です」

司は驚愕した。自分も正直、善悪で言えば「悪い事」をしている実感はあった。既得権益者を排除した理想郷。響きこそは良いが、結局の所は独裁帝国に過ぎない。自身の心地の良い揺りかご。その揺りかごを壊す者は殺してきた。
千空もーーー目の前で破壊された、老人たちの石像も。

ではこの少女は?石像を人と信じ、そして「石像破壊を見過ごせば助かる」自分の命を顧みず、見過ごす行為が許せないから死ぬ、とまで言い切るこの少女の芯の強さは。
その信念は、この手で手折る必要があるのか?
司の心に千空を殺してから暫く来なかった、『迷い』が生じた。

動揺したのは羽京もだった。
「石像は現状モノだ。壊すのは殺人じゃない」そんな吹けば飛ぶ理論武装で、自分の心を守ってきた。
なのに…目の前の自分よりか弱そうな彼女はそれをやすやすと超えてしまった。司の殺人を、見過ごせない自身を許す事すら彼女はしなかった。
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