第3章 【第1章】嵐の前の静けさ Day1
白銀の髪に蒼い瞳、その見た目の儚さからまるで天使…「聖女」と私は呼ばれる。
だが、私は聖女を演じる悪女だ。相手の喜ばせる様な言葉と相手の欲しい物をあげて、それでいて献身的にならない様に、最後の帳尻は合わせる。
自分が与えるものの上限を決めて、そこに達すればあげない。すると相手が何とか気を引こうとする。そしたらちょこっとだけ、チロルチョコ程度の優しさっぽい偽物をあげる。それで良い。どうせ向こうも私の上っ面しか見ていない。
汚い世界で生きてきた。
この声が何故「美しい」と、この歌声が、歌詞が、紡ぐ旋律が、容姿が。
何故「美しい」と評価されるのかは分からない。
ただ、そう好意的に取られるというのだけは判っていた。恐らく世間的に言うところの、他人の立場にまるで立てない、それこそ悪女の典型例だと信じている。
だが、そんな悪女ですら予測不能の事態は起こりうるのだ。
例えばそうーーーー
「お願いだよ、Aonn!!いや、葵!!一生のお願いだ…!!
アンタが仲が良い…リリアン・ワインバーグの『One Small Step』を歌って欲しいんだ!!お互いの曲をカバーしてただろう!?アンタじゃなきゃ駄目なんだ…!!リリアンの歌を聞くことなんてこんな世界じゃできっこないって思ってたアタシの希望なんだ…リリアンは…リリアンは…!!アタシの人生なんだ、頼むよ…!!!!!」
……まあ、こんな感じで。
そこではアツすぎる告白をしながら号泣、叫ぶ花田仁花ーー通称ニッキーが目の前にいた。
「おぅふ……?」
流石の葵もこれは、予測不能だった。
昨夜のライブの時点で1人異様に熱い眼差しを送っていたので、何かあるとは思っていた。
まさか彼女がここまでリリアン・ワインバーグに傾倒し、自分とコラボしていた事も当然の様に把握していたとは……失礼ながら、その鍛えられた肉体からは予想出来なかった。
後ろでは羽京があはは…と苦笑い。
本来の目的の大樹と杠に関しては、
ニッキーの後方で大樹は「俺でも知ってるぞ!!アメリカの歌う人だなーー!?」と叫んでるし、杠も羽京同様苦笑い。カオスに拍車をかけている。
あー……これ私が一旦みんな落ち着かせないといけないね。
大人のプロの対応が求められるヤツだね、うん。
瞬間的に葵は悟った。