第2章 【第1章】前哨戦
あ、それと。葵が更に話し掛けて来る。こんな風に自分の事を『霊長類最強の高校生』の肩書き無しの、例えるなら学校の教室で前の席の生徒がふいにねえねえ、と振り返って話しかけるような気安さーーそれらは、……千空たちと過ごした、短いあの日々以来だった。
そこから幾つか質問が来る。彼女は明言してはいないが、もしやこれは選曲の話だろうか?
「葵、俺の希望はいいんだ。君の歌いたい曲を歌うと良い」そう出来るだけ優しく聞こえる様に声をかけると、ん?と彼女は首をまた傾げる。
「……お気づきでしたか〜。流石ですなぁ。
でも私が歌いたいのが、司君が望む雰囲気の曲なので!」ニマッ、と笑う。
「お陰でセレクション終わりました!出番、行けますよ」ニコッと葵が笑う。
「……そうか。うん、ありがとう。頼むよ」
穏やかに微笑むと、司がすっくと立ち上がった。
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「皆、今日もご苦労さま。少し、話を聞いて欲しい」
一同なんだなんだ、と司に視線を集めた。
「葵に、今から歌を歌ってもらおうと思うんだ。ーー寒い中の労働で、皆には苦労をかけているからね。彼女の歌を聞いて少しでも心を癒してくれればと思うよ」
え、歌? アイツが?あの子歌手だったの…?
ざわざわと疑問の声が立ち上る。司がいる手前、あくまで皆驚きの声ばかりだが、内心はもっと複雑なのだろう。だがザワつく場をものともせず、葵は皆の真ん前ーー誰からも見えるだろう位置に歩き、立ち上がった。
ざわつく聴衆を前に、数秒。瞼を閉じると、ふぅーと深く息を吐き、目を見開いた。
その獣を見据える様な視線の鋭さに、ざわつきが止んだ。
どよめきが止んだのを確認すると、葵は先程までの鋭さが嘘のようににこりと笑い、大きく息を吸った。
ーー私の全てを今、あなたに捧ぐーー
貴方の背負う 罪と罰 どんな物だって 私が背負う
貴方は 決してひとりじゃない 私は貴方に出会う為だけに この道を歩いて来た
これまで犯してきた過ちでさえ全て必要だったのさ
これからは大丈夫
どんな困難にあったって どんな荒波に揉まれたって
負ける事は無い それだけは無い
世界に後ろ指を刺されても 行こう
世界を敵に 私と共に
行こう その先へ
誰も知らない僕らの世界
誰も知らない新世界へ
世界は変える為にあるーー