第2章 【第1章】前哨戦
冬季の間の食料は、主に秋までのうちに取っておいた魚や乾燥させても食べられる山菜類などなど。司帝国に於いては千空達の様に瓶詰めで新鮮なご飯を用意する事も出来ない。それ故にほぼ秋までの間に貯めて置いた食糧頼みで冬越しをする。冬の間はそれまでに比べ食事の制約がかかった。
以前は焚き火をしながら楽しく談笑したのだが、1月になり夜の寒さも冬の寒気で本格的になった現在の司帝国では、会話もまばらに帝国の面々は各々の食事をしていた。
『冬季の間の士気を保つ』ーーそれが今の司帝国に於いて来るべき千空達との戦争の次に重要な事柄であった。こればかりは司が励ました所でどうにも出来ない。
なればーー司は左手でもぐもぐとご飯を食べる少女ーー、正確にはとっくに成人済みらしいので歳上の女性だがーーを見据えた。
彼女は2週間ほど前に、なんと自力で司帝国付近で復活、凍え死にそうな所を司達で拾ったのだった。司や南が選んだ『復活者』では無いが故、反発や彼女に対する陰湿ないじめがあったらしい。
監視役の羽京からその点を相談を受けていたし、実際に氷月を初めとする周りのメンバーに注意喚起もしている。彼女に実際に危害を加える場所には出くわした事が無い。だがよくよく見ればポンチョの袖口から白い包帯らしき物がちらりと見えた。チクリ、と何かが胸を刺す。
勿論自身の為でもある。1人の人間に肩入れをする訳ではないし、それは主として肝に命じている。それ抜きにしても、彼女の居場所をこの帝国に作りたいーー
その一心で歌を歌わないか、と声をかけたのだった。
「うん、そろそろみんな食べ終える頃だね」
「そうですね〜。出番、ですか?」
くい、と首を傾げる姿は完全にうら若き少女のそれである。恐らく今日過去を告白されなければ、歳上だとは気付かなかっただろう。
「……そうだ」
何か思い出した様に、ポンと葵が手を打った。
「司さんはハッピーエンドとバッドエンド、どっちがいいと思います?」
「……?それは今日の歌に何か関係があるのかい」
「大アリです!」胸を張る葵。
何故だろう。20を過ぎた女性の筈がその表情と仕草からか何処か幼い。くすりと笑いながら司が続ける。
「……なら、ハッピーエンドかな」
「なるほど〜」何がなるほどなのか分からないが、彼女の中で何か意味が有るのだろう。それ以上は追求しないでおいた。
