第1章 【プロローグ】宣戦布告
だから、もう君は心を痛めなくて良い。
ふふ、と心の声が口から漏れた。もちろん顔の横で思いっきり草木をパキパキさせて聴こえない様に。もし聴こえたとしても、草むしりで笑ってる変な奴ーーもう既になってるがーーになるだけだ。
鶴の恩返しでは無い。けれど、これでせめてもの真冬に復活して行き倒れた愚かな自分を助けてくれた恩くらい、返せただろうか?
ーー優しい人が泣くのは、見たくない。その為なら。
どんな道化師だってやってやる。
みんなが望むなら、私の歌が全てその感情を、言葉を代弁する。
喜びも怒りも哀しみも楽しみも憎しみも苦しみも狂気も。全てを私が写す。
そしてみんなの抱える苦しみを壊す。壊して壊して、心を再生する。
私の曲がみんなの端末の中で何度も再生される様に。阻むもの全て壊し続けてやる。
それが旧世界の日本を代表するミュージシャンの中で唯一『顔のない』歌姫ーー『Aonn』としての覚悟だった。