第1章 #00 記憶
「………い」
頭の奥で、何かが聞こえる。
誰かが呼んでいる気がする。
「……おい」
心なしか、体も揺さぶられている気がする。
「……おい、イヴ。いつまで寝てんだ。起きろ」
『…ん、う』
淡い髪色から覗く赤い瞳。
掠れてしまった唇から、わたしの名前が呼ばれていた。
『……あ、弔さん…おはようございます』
「おはようじゃない。ここは寝る場所じゃない」
どうやらカウンターで突っ伏して寝てしまっていたらしい。
固まってしまった体を起こし、伸びをする。
かなり寝てしまっていたらしい。背中が痛い。
額からはどっと汗が流れていた。
「だいぶうなされてたぞ」
……あれは、夢か。過去の嫌な記憶だ。
『……すみません、嫌な、夢を見てました』
「…どんな夢だ」
わたしの隣に座った弔さん。
表情を変えず、じっとわたしを見つめている。
【 わたしね、おおきくなったら、お父さんとお母さんみたいなヒーローになるの! 】
『ただの、気持ち悪い夢物語です』
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