第4章 邂逅への誘い
<男審神者side>
演練を終えた、その日の夜。
「話がある」と審神者部屋を訪問してきたのは、鶯丸だった。
演練自体はつつがなく終わったものの、対戦相手の本丸の男士が突然失神し、緊急で帰還するという事件があった。
それ以降、鶯丸の様子が普段とすこし違うように見える。
鶯丸は、顕現してまだ数日なこともあるが、飄々としていて何を考えているのか掴みづらい。
だが、彼が考え事にふけっていることはわかった。
そんな彼に改まって話があると言われると、何事かと緊張が全身を駆けめぐる。
近侍の歌仙が、怪訝そうな視線を鶯丸に向けた。
どこか非難をはらんだ眼光に、臓器という臓器が縮み上がる。怒った歌仙は、とても怖いのだ。
「……席を外した方がいいかい?」
微塵もそうは思っていなさそうな声だ。
「いや、大した話じゃない」
鶯丸が否定すると、歌仙の顔には、大した話じゃないならアポなしでこんな夜に来るんじゃない、と書かれていた。
まだ数ヶ月だが、我ながら、歌仙の怒りポイント察知能力が向上してきたのを感じる(なので多分、主なのだから男士の不作法を看過するのはいかがなものか、という方向からの怒りもある気がする)。
鶯丸は静かな所作で、目の前まで歩を進めてきた。
胸元の飾り紐がはらりと揺れる。
長い手足を音もなく折り、作法の手本のような姿勢で正座する。
そしてゆっくりと、膝に手をのせた。
洗練された動作は、美術品さながらだ。しかし、それよりも強く、“畏れ”を感じさせられた。
目の前の存在が神であることを、改めて思い知らされる。
す、と鶯丸が視線を合わせてきた。
視界いっぱいに鶯色がすべりこんでくる。
波ひとつない、凪いだ水面を思わせるような瞳。
すべては見透かされている、なんの偽証もできない、と瞬時に抵抗できなくなるような――