第48章 打ち砕かれた野望
「落ち着け!オマエまでびしょ濡れになる気か!?」
「びしょ濡れくらいどうってことない!!早くしないとタケミチくんが死んじゃ…」
「あのくらいの深さならアイツでも足が付くんだよ!!」
「へ……?」
ぎゃあぎゃあと言い合っていると、ぶはっと水面から顔を出したタケミチ。千冬の言う通り、しっかり足は川の底に付いていた。
「千冬くん!先に言ってよ!」
「早とちりしたのはカノだろ!」
一人でテンパって恥ずかしい…と頬を微かに赤らめながらカノトは落ち着きを取り戻した。
「何やってんだよバカ!!」
「そうだよ!!いきなり飛び込んだら危ないでしょ…!!」
「千冬!!カノちゃん!!」
「!」
「稀咲の事死ぬほど嫌いだし、憎くてしょうがねぇし、絶ッ対ェ好きになんかなれねぇけどさっ」
「……………」
「アイツ言ったんだ!全部ヒナの為だって!オレの事リスペクトしてるって!だからさぁ…だから、オレ、もっとアイツと向き合いたかった!!」
"くそっ"と悔しげに呟き、水面を叩く。あれほど憎かった相手だったのに、それでもタケミチは稀咲のことを知ろうとした。
「(やっぱり君は優しいね。)」
私だったら絶対に無理だ
兄さんを殺した犯人と
向き合うなんて
カノトと千冬は顔を見合わせ、小さく笑う。
「風邪ひくぞータケミっち」
「早く上がって来なよ〜」
「少しは晴れたか?気持ち。」
「なんか…やるせねぇよ千冬」
「あぁ…わかるよ」
振り向いたタケミチの顔は涙でぐしゃぐしゃだった。
「ヘクション!」
「くしゃみしてるじゃん。体だって冷たくなるし、早く上がりなってば」
「……………」
「どんな悪人でもさ…やっぱ知ってる奴が死ぬのはしんどいよな」
「でも、あの状態で助かる可能性は低い。看護師の私から見てもすぐに分かったよ」
その時、ポケットにしまっていた携帯がマナーモードで震え、画面に表示された名前を確認する。
「!」
万次郎くん…
【鍵開けておくからオレの部屋に来て。】
ただ一言、そう送られてきた。カノトは二人と別れた後、佐野家に向かった。
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