第46章 東卍vs.天竺
17時00分──阿佐ヶ谷病院。
「(死んでるのに…綺麗な顔。)」
霊安室のベッドに横たわるエマの顔は、息を引き取る前の苦しみや痛みを一切感じさせない程に穏やかだった。
彼女が眠る向こう側には線香が焚かれており、それが余計に死を感じさせる匂いがした。
「(こうして人の死を看取るのは彼女が初めてじゃない。容態が急変して、そのまま亡くなってしまった患者さんの最期に立ち会った事も何回かある。)」
その度に胸が苦しみと悲しさで締め付けられ、泣きそうになる。大切な人を亡くした遺族は涙を流し、ずっと背負っていくのだ。"愛する者を失った心の傷"を…。
「…助けてあげられなくて、ごめんね。」
胸の前で両手を合わせ、目を瞑る。
「(どうか彼女の魂が、天国にいっても、幸せと安寧がありますように──……。)」
拝むように合掌していると、突然扉がガラッと乱暴に開き、ビクッと身体を跳ねさせ、驚いて後ろを振り向いた。
「…ドラケンくん」
病院に駆け付けたドラケンは、エマの遺体に近付くと、目を見開き、ぼう然とする。
「なんだよ?コレ。」
目の前で起きている状況が呑み込めず、放心しているドラケンを気遣い、カノトは辛そうな顔を浮かべた後、静かに霊安室を出た。
「……………」
霊安室を出てすぐの長椅子には、今まで見たこともないほど憔悴しきった顔で俯くマイキーが座っていて、目には生気が宿っていなかった。
少し離れた場所にはタケミチが座っている。カノトはマイキーの隣に腰を下ろすが、こちらに気付く様子はない。まるでカノトの存在が視界に入っていないようだった。
いつもなら少し距離を空けて座ると、"何で離れて座るんだよ!"と不貞腐れながら、ピッタリと距離を詰めてくるが、今日は身動ぎ一つしない。
「(兄さんが死んだ時の事を思い出す…。)」
初めてマドカが死んだ日、病院に運ばれ、緊急手術が行われるも、助からなかった。そこが病院だと言う事も忘れて、子供みたいに大声で泣き叫び、その後、魂が抜けたように憔悴しきった顔でぼう然としていた。
「(一生慣れないよ…人の死なんて。それが最愛の人なら尚更、乗り越えられない。)」
膝の上でギュッと拳を握りしめた。
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