第35章 壊れた愛の絆
「アイツに何かしたら殺すゾ」
「("殺す"って言われたの、フィリピンで会った黒髪マイキーくん以来だな。やっぱり彼の中には海凪ちゃんへの想いがある…。)」
マイキーが向けているのは殺意だ。黒目に宿った殺意はどこまでも深く、そして激しい。そんなマイキーを見たカノトは悔しさと悲しさが込み上げ、ずっと張り付けていた笑顔を崩した。
「何もしませんよ。彼女が僕に手を出さなければ、の話ですが。」
「あ……?」
まるで海凪が手を出せば何かするような言い方にマイキーはピキッと青筋を浮かべる。
「そう殺気立たないでください。彼女が僕に何かするとは思いません。それに僕は暴力が嫌いです」
「アイツがテメェに何かしなくても、テメェがアイツに何かするかもしんねーだろうが」
「…僕をそんな風に思ってるんですか?」
「テメェは信用ならねぇ。マジで海凪に何かしやがったらオレはテメェを許さねぇからな」
「とことん僕を拒絶しますね」
「当たり前だろ。一昨日から訳の分からねぇ事でオレを惑わしやがって。何が恋人だ。何が大好きだ。どうやってオレを騙して、恋人関係に持ち込んだ?」
「何を言ってるんです…?」
「前にも言ったけど、オレは男を好きになる趣味はねえ。だからオマエが言葉巧みにオレを騙して恋人関係を迫ったんだろ?」
「…いい加減にしてください」
あまりにも酷い言葉に怒りで体が震える。今度はカノトがマイキーをキッと睨んだ。
「記憶を失くす前のマイキーくんを知らないくせに、勝手なこと言わないで。彼はちゃんと僕のことを好きでいてくれてるし、大事にしてくれてる。男とか関係なく、愛してくれてるんです」
泣きそうになるもグッと堪える。
「本気だって言ったから僕もそれに応えた。男同士の恋なんて上手くいかないと思ったけど…彼が精一杯の想いを伝えてくれたから、僕も彼に愛されてみたいと思った。でも…」
あぁダメだ…
またイライラする
「今のマイキーくんは好きじゃありません」
「じゃあ別れればいいだろ」
「え……?」
「今のオレが好きじゃねぇなら無理して傍にいることもない。この先記憶が戻るとも思えねぇ。それに今のオレにとって必要なのはオマエじゃない」
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