第34章 記憶から消えた君
「え!?あの人が!?」
衝撃を受けたようにタケミチは驚いた顔で固まった。
「あ…そっか。だから万次郎って下の名前で呼んでたのか。けど明らかに男が嫌いって目で俺らを見てたな…」
「彼女のことは…覚えてるのかな」
「え?」
「(それだったら…二重にショックだ。もし私を想う気持ちが消えているなら…今のマイキーくんの好きな人は…)」
嫌な考えが頭の中でぐるぐると渦巻く。それを取り払うように軽く頭を振った。
「なぁ…こないだ電話でマイキー君と喧嘩したって言ってただろ?もしかして…あの人も関わってたりするのかなーなんて…」
「タケミチくんってたまに鋭いよね」
「たまにィ〜!?」
「冗談冗談。彼女は本当は優しい人なの。マイキーくんの幸せを心から願ってる。でも…ちゃんと話したい。彼女とも、マイキーくんとも。この関係をこじらせたまま放置するのは良くないと思うから」
「家の方は大丈夫なのか…?」
「心配しないで。もし間に合わなくても必ずおじい様を説得する。もちろん簡単にはいかないけど…それでも納得させてみせる」
タケミチは心配そうにカノトを見る。
「私がこの先もずっと一緒にいたいって思う相手はマイキーくんだけだもの。だから記憶だって絶対に戻るって信じてる」
ニコッと笑う。
「カノちゃん…」
「今までの思い出を無かったことになんてさせない。彼と過ごした幸せの日々を、壊させたりしない」
「(無理してんのバレバレだっつーの。けど、それでもお前は…諦めずに頑張るんだな。)」
タケミチはガッと両手を握り、カノトを励ますように言う。
「今は辛いかもしんないけどさ!自分を信じろよカノちゃん!きっとお前のマイキー君を想う気持ちはあの人に伝わる!だから絶対に諦めんな!」
キョトンとするカノトだがすぐに口角を上げて笑った。
「ありがとう。諦めずマイキーくんに会いに来てみるよ。私のことを少しでも思い出してくれるように」
「頑張れよ勇者様!」
「任せとけ」
「さてと!帰ろうぜ!」
「(きっと大丈夫だ。)」
そう自分に言い聞かせてカノトは先に歩き出していたタケミチの後を追いかけた。
next…