第32章 好きな人の初恋の人
「どこ走りに行く?」
「そうね…タカちゃん、おすすめある?」
「それなら───……」
「(もう私のことは気にしてないみたい…)」
三人で楽しく話す姿を見て、自分はその輪の中には入れないことを知り、背を向けて神社から立ち去ろうとする。
「……………」
その後ろ姿を追いかけるようにドラケンはじっとカノトを見ていた。
✤ ✤ ✤
「ただいま」
沈んだ気持ちで家に着いたカノトは靴を脱ぎ、自分の部屋に向かう。
「……………」
テーブルの横にショルダーバッグと買ってきた袋を置き、ベッドの前で立ち止まると、そのままうつ伏せ状態でぼふっと倒れた。
「マイキーくんの…ばか」
紫の瞳が悲しげに揺れる。
「私以外の女の子に心が揺れたら…絶対に許さないんだから」
首を横に向け、枕半分から顔を覗かせる。
「(碓氷海凪ちゃん…綺麗だったな。ちょっと素っ気ないけど根は優しくて…赤色のピアスが印象的で…)」
私なんかより…ずっと素敵だった
「彼女はマイキーくんが好きだった人…マイキーくんの初恋だった女の子…」
自分で口に出して切なくなる。
「同じ世界を生きてきた二人…小さい頃からお互いを知っていて…私と出会う前よりもマイキーくんの傍にいた人…」
もし…私が過去に来なければ
私が彼と出会わなければ
「(マイキーくんは…彼女を好きになって、いつも私に与えてくれる愛を彼女に向けて、ハグもキスもそれ以上のことも…)」
そこまで思って考えるのはやめた。
「…離れていかないよね?」
不安が心を満たし、恐怖が襲う。
「(ううん、信じよう。だってマイキーくんはちゃんと私を愛してくれてる。そんな彼を信じないでどうするの。)」
心では信じると呟くも、綺麗な紫の瞳が悲しげに揺れる。
「(きっと、大丈夫。)」
バッグの中に入れていた携帯がマナーモードで鳴り響く。バイブにしている為、振動だけがバッグ全体に伝わり、小刻みに揺らす。
その画面に表示されている文字は───
────【宮村家】。
next…