第3章 ふたりを繋ぐ証
「貴女に初めて会った瞬間、ボクの心は天使の放つ矢によって射抜かれてしまいました。貴女が好きです。付き合ってください」
「……………」
ナオトの家に向かう途中でまたしてもダメンズに引っかかってしまった。しかも今度は街中ですれ違っただけのスーツ姿の男に初対面で求婚されたのだ。
「お断りです」
「何故ですか!?」
スタスタと早歩きで立ち去ろうとすれば、男もしつこく着いてくる。“逆に何で結婚できると思った”と訝しげに顔をしかめ、苛立ちを募らせた。
「ボクは大手企業の社長でね!もしボクと結婚してくれるなら君の好きな物を何でも買ってあげるよ!どうだい!?」
ピタッと立ち止まったカノを見て、承諾してくれたと勘違いした男がフッと笑う。
「結婚、してくれるね?」
「死んでもお断りです。」
「だから何故だ!?」
通行人達がそのやり取りを“うわぁー…”というような顔でジロジロと見ながら通り過ぎていく。
「私、恋人がいるんです」
「いてもボクは構わないよ!」
「は?」
咄嗟の嘘で逃げ切ろうとすると、男はとんでもない事を笑顔で言ってのけた。
「だってボクにも妻と子供がいるからね!」
「…既婚者なのに不倫?」
「その方がスリリングがあって燃えるじゃないか!君のような美しい女性は今までに見たことがない!ぜひボクと結婚し…」
「するわけねェだろ、この最低野郎。」
ブチ切れたカノは冷たい瞳と怒気を含んだ声で不倫男に向き直った。
「“天誅”」
ドカッ
片足を下から男の顎目掛けて蹴り上げた。宙を舞った男はドサッと地面に倒れ、気絶する。
「そんなに女に飢えてるなら出会い系でもやっとけ」
ふんっと鼻を鳴らし、べっと舌を出した。その一部始終を傍観していた通行人達はカノを見て驚いた様子で立ち止まっている。
「(あーもう…最悪!ナンパ男の次は不倫男とか!)」
キュゥ〜…っと目を回して気を失っている男をそのまま放置し、カノはナオトの家へと向かって歩き出した。
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