第8章 寂しがりな君に贈るキス
首にキスマークがあるなんて知られると色々問題なので、とりあえず絆創膏を貼って隠す事にした。
「おはよ宮村〜」
「おはよう」
「ん?お前その首の絆創膏どうしたん?」
「…虫に刺されちゃって」
「くっ…虫すらもイケメンの血を欲するのか!羨ましいぞチクショー!俺と体を入れ替えてくれ!」
「無理に決まってるよ」
「一度でいい!モテ男の気分を味わわせてくれ!女子にチヤホヤされたい!」
「煩悩丸出しだなぁ…」
「女子とキャッキャウフフして何が悪い!!いつもは邪魔者扱いされてっけどお前と入れ替わる事ができたら…モテまくりで最高じゃねえか!」
カノトと入れ替わり、女子達にチヤホヤ持て囃される自分を想像したのか、鼻の下を伸ばしながらニヤニヤと締りのない顔を晒している。
「僕の体で何する気だよ…」
「女子に触れたい!!」
「僕まだ捕まりたくないんで」
「お前は俺を変態か何かと間違えてないか?」
“あながち間違ってない”───とは流石に言えなかった。がっくしと落ち込む友人を適当に慰めながら、今日も授業を受ける。
✤ ✤ ✤
「(あ、醤油切らしてたんだった。)」
学校を出た所で今晩の料理に使う醤油が無かった事に気付き、帰りにスーパーに寄って買いに行こうと思った時、携帯の着信音が鳴った。相手はマイキーからだ。
「もしもし?」
《…今どこにいんの。》
電話に出た途端、いつもとは違う、低くて少し怒ったような声のトーンに驚いた。
「もう帰るところです…」
《家に来て。》
「え?」
《鍵開いてるから勝手に入ってそのままオレの部屋まで来て。》
「でもあの…これから寄るところが…」
《いいから来い。》
苛立ちを含む声にびくんっと身体が跳ねた。ブツっと一方的に切られ、訳が分からず立ち竦む。
「マイキーくん…怒ってた?」
何か怒らせるような事をしただろうか?と頭を捻って考えるも、思い当たる節が全く無く、戸惑いの表情を浮かべる。
「(とりあえず行こう…。)」
ギュッと携帯を握り締め、ドクンと逸る心臓に息苦しさを感じながら、マイキーの家へと向かった。
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