第58章 かつての仲間と共に
「頼まれるまでもねぇ!」
「え?」
「オレがオマエを選んだんだぜ」
立ち上がったイヌピーは、チームに加入することを二つ返事で受け入れた。
「よーし、決まりだな!」
話が終わると千冬はTWのTシャツを広げる。イヌピーはそれを冷めた眼で見ている。
「今日からイヌピー君もTWのメンバーだ!これを着てくれ!!」
「カ───ぺッッ」
「あ"あ"あ"あ"!!なんてことすんのよイヌピー君!!」
次の瞬間、Tシャツに向かって痰を吐き出したイヌピーに千冬は悲鳴を上げた。
「そんなダセぇモン着れるか」
「(やっぱりダサいよね、このTシャツ…)」
Tシャツを軽く引っ張るとプリントされた黒猫のペケJと目が合った。"君は悪くないよ"と心の中で呟き、そっと顔の上から手を添える。
「カノトは喜んで着てくれたのに!」
千冬のその言葉に踵を返していたイヌピーの足がピタッと止まる。
「あの、千冬くん…僕は別に喜んで着てるワケじゃ…」
「…着てやる」
「え?」
「オマエも着てんだろ」
「まぁ…千冬くんにお願いされて…」
「貸せ」
千冬の手からTシャツを奪い取ると、イヌピーは着替えに行った。
「ダメ元でオマエの名前出してみたけど正解だったな!すげぇ嫌そうな顔してたけど!」
「もう千冬くん、僕をダシに使わないでよ」
「(イヌピー君ってカノちゃんのことだと素直に応じるんだよな。)」
「オマエがモデルとして活躍した時には是非このTシャツを宣伝してくれ!」
「モデルの仕事なんかしないよ。というか…このTシャツを世間の目に触れさせるのはちょっと…」
「(そういえばイヌピー君って、カノちゃんのこと無自覚で好きなんだっけ?)」
イヌピーが着替えに行った方向に目を遣りながら、タケミチはふと思った。
「(その恋は…きっと叶わないな。イヌピー君だからじゃない。マイキー君相手じゃ誰も敵わないんだ。それくらいカノちゃんに向けるあの人の想いが強過ぎたから。)」
「!じっと見てどうかした?」
「いや、何でもない」
早く二人が仲直りして元の関係に戻ることを祈るタケミチだった。
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