第53章 貴方を助けるために
「…おかしいな」
ある人物に電話を掛けるが、数回のコール音が鳴り続けるだけで一向に出る気配がない。
「(どこにいるんだろう。)」
留守電にもならなくて、カノは残念そうに溜息を吐き、電話を切る。
「ナオトおおお!!!!」
「!」
歓喜の声に驚いて顔を上げると、少し離れた場所でタケミチが直人に抱き着いていた。
「(直人くん!やっぱり生きてた!)」
稀咲の銃弾からタケミチを庇い、自ら命を落とした直人。しかし過去で稀咲が死んだ影響で未来は塗り替えられ、今回の世界で直人は生存を果たしたのだった。
「(良かった…本当に、良かった。)」
カノも直人が生きていた事を嬉しく思い、胸の前で携帯を握り締めながら安堵の表情を浮かべて微笑んだ。
「もうすぐブーケトス始まんぞ」
「!」
「参加しなくていいのか?」
「ドラケンくん」
感動に浸っていると、千冬のところにいたドラケンがこちらに歩み寄ってきて、カノの隣に並んで立つ。
「私はもう十分幸せですから。
今回は彼女に譲ります」
花嫁が投げた花束のブーケを受け取った女性は、次に結婚ができると言われている。カノの視線の先には、花嫁の投げたブーケを受け取るヒナの姿があった。
「不思議だよな」
「?」
「オレらからしたら12年なのに、オマエらからしたらさっき別れたばっかなんだろ?」
「はい」
「すげー話だよな。今、オレらに命があんのも、オマエとタケミっちのおかげって事だもんな」
「私はただタケミチくんのサポートをしただけです。流石に私一人だったら途中で挫けてました。彼の手助けもあったから、諦めずにここまで頑張ってこれたんです」
最初はマドカを救う為にタケミチのタイムリープの力を借りて一緒に頑張ってきた。でも今となってはマドカ以外にも大切な存在が出来、守るものもたくさん増えた。
それは自分一人の力じゃ決して成功しない。頼れる友が背中を押してくれて、折れそうになる心に勇気を与えてくれたから、何度も立ち止まりそうな足を動かし、前に進むことが出来た。
周りから英雄(ヒーロー)と称えられる理由も分かる。だって花垣武道は本物のヒーローなのだから。
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