第5章 切ない記憶の断片
木曜日。今日は祝日で、朝からお客様が多い。
祝日は家族連れも来てくれるから、悲鳴嶼さんもパンを焼き続けている。
お天気の良い休みの日には、公園で過ごす人も多い。
穏やかな過ごし方で良いなあと思う。
私も彼がいたら、休みの日は公園デートもしてみたいな。
「妹子さん、味見してみる?」
悲鳴嶼さんが、秋の新商品の栗とさつま芋のデニッシュ食パンを切ってくれた。悲鳴嶼さんが何度も試作して出来たものだ。
「はい!いただきます!!良い香り!」
私は、パリッとしてふんわりした生地を食べて、その美味しさに感動した。さつま芋も栗もたっぷり入ってる。
さつま芋を見て煉獄さんを思い出した。
「悲鳴嶼さん、このパン、来週出ますか?」
悲鳴嶼さんは私が美味しいと言ったので、涙目になっている。
「出してみる?妹子さん、仕込みを一緒にやろうか」
最近、悲鳴嶼さんは私にパン作りを教えてくれる。
「はい!宜しくお願いします。」
私も、このパンを作ってみたい。
来週会う煉獄さんに食べて欲しいと思った。
午後もいつも以上に売れ行きが良くて、今日は夕方を待たずに早く閉店になりそう。
商品も、大分少なくなってきて、お兄ちゃん達は厨房の掃除を始めている。
その時、お店の木のドアが開いて、銀色の髪の男の人が入って来た。
「こんにちはァ!おお、久しぶりだなァ、小野さん」
スラリとしているけど、鍛えた堂々とした身体をした人。
ああ!不死川さんだ!!
私の方に歩いて来た。
「こんにちは!不死川さん。先日はご馳走様でした!」
美味しいおはぎをご馳走になったせいか、私の中では、不死川さんと言えば、おはぎと抹茶のセットの印象があった。
「なかなか忙しくて来れなくて、今日は店のスタッフに任せて抜け出して来ちまったァ」
言いながら店を見回す。
「もう、あんまり残ってねェな。皆に買って来るって約束したからなァ、全部もらおうか。」
不死川さんはお店の商品を全部買うと言っている。
残り少ないとは言え、全部は多くないのかしら…。
「ありがとうございます。でも、沢山ありますよ?」
私が聞くと
「本当はまだ欲しいくらいだァ!皆、楽しみにしてる」
私はお兄ちゃんに手伝ってもらって、二人で商品を全部お包みして、おまけに焼き菓子を付けてお渡しした。