第5章 切ない記憶の断片
部屋が少しずつ暗くなってきているのを感じて目が覚めた。
帰ってからすぐにベッドに横になって、1時間は寝ていたのかな。
起きて冷蔵庫の冷えた冷茶ポットからグラスにお茶を注ぐ。
ベランダに出てお茶を飲みながら、寝起きの頭でボーっとする。
煉獄さんにお礼のメッセージを送っていない事に気が付いた。
部屋に戻ってバッグから携帯を取り出して、煉獄さんを探す。
煉獄さん
今日はありがとうございました!
とっても楽しかったです。
お墓参り、次は煉獄さんの方に行きましょう。
料理の本もありがとうございました!
頑張って練習します。
小野 妹子より
送信した。
お茶を飲みながら、昼間の不思議な感覚を思い出していた。
何だったんだろう…。煉獄さんが百合の花束を私に手渡した時、湧きあがった懐かしさ。
そして、煉獄さんがお蕎麦を食べながら、前にも私とお蕎麦を食べたと言った、あの時の、煉獄さんの哀しそうな顔…。
考えても分からないけれど、小さな棘のように
引っかかる。
…でも、気にしないでおこう。
それを気にするよりも、今日一日が楽しかった方が大切だもの。
音楽をかけながら夜ご飯を作っていたら、携帯の着信音が鳴った。
駆け寄って見てみると、煉獄さんからだった。
「もしもし」
「小野さん、今話しても大丈夫?」
穏やかな煉獄さんの声がした。
「はい!煉獄さん、今日はありがとうございました!」
「俺の方こそありがとう。あれから具合はどう?
聞いてみようと思って電話にした」
「もう、大丈夫です。帰ってから寝て、今はご飯作ってます。
食欲もすごくあります!」
煉獄さんが電話の向こうで笑うのが分かった。
「そうか!それなら良かった!!今度は夜に食事でもしよう。
仕事帰りにでも」
「わあ!楽しみです!」
ワクワクした。また煉獄さんが誘ってくれた。
「うん。君の店に迎えに行く。来週のどこかでまた会おう!
では小野さん、また連絡します」
「はい!煉獄さん、失礼します」
電話を切って、好きな歌を歌いながらご飯を作った。
休みの日は作り置きも一緒にしておく。
今日は、木の子を数種類、一緒に炒めておこう。
保存瓶に入れておくと、さっとパスタにもスープにもできる。
あとはキャロットラペも。
元気になっていた。