第2章 さつま芋タルトのお兄さん
「お借りして、ありがとうございました!」
私は万年筆を差し出した。
煉獄さんが受け取る時に、また手が触れた。
「では、来週の金曜日に!」
煉獄さんは笑うと、ドアを出て行った。
「ありがとうございました!」
タイミングを遅れて言ってしまった。
なんかふわふわする。
注文用紙を切り取り、厨房にいた悲鳴嶼さんに手渡した。
悲鳴嶼さんは、煉獄さんを見ていたらしくて、
「今のお客様は、かなり鍛え上げられた肉体だった。気も、かなり良い。正に、漢、だな! 」
と、腕を組みながら言った。
「悲鳴嶼さんがそう思うなら間違いないですね〜!」
と言いながら、ちょっとドキドキしていた。
さあ!私にはミッションが出来た。
来週の金曜日の今頃、煉獄さんのケーキを無事にお渡ししなければ。
今日は明日の準備が沢山あったので、7時に終わった。
お兄ちゃんが、私の歓迎会をしてくれると言ったので、ありがたく受ける事にした。でも、明日は土曜日で忙しそうなので、今夜じゃない方が良さそう。来週のどこかで皆の都合の良い日に、夜ご飯を。という事になった。
公園を歩きながら帰る。
この前のおにぎりのお兄さんは、煉獄さんという名前だった。
フラムに来てくれるって事は、この近くに職場でもあるのかな。
さっき聞いた煉獄さんの住所は、ここからそこまで離れてはいない。
わりと、生活圏が一緒なのかもしれないな。
お客様のプライバシーに入り込むのは駄目だから、そこから先は考えないようにした。
ただ、さっきの、ふわふわした気持ちは心地良かった。