第10章 ※ 二人だけのプール
仕事の時は目覚ましがなくても大抵は起きられる。
遅刻するとお店にお菓子が並ばないし、皆に迷惑がかかるから、今まで遅刻した事はない。
煉獄さんとお付き合いするようになってから、私の仕事がある日は毎朝、おはようの電話をするようになった。
今朝も5時30分より少し前に目が覚めて、枕元に置いていた携帯に手を伸ばす。眠い目で煉獄さんの番号を押そうとしたら、煉獄さんからの着信が入って来た!
「おはよう!妹子ちゃん。」
煉獄さんの艶のある声が耳に届いて心地良くなる。
「杏寿郎さん、おはようございます!」
毎朝、こうして一日が始まる。
「杏寿郎さん、今から走りに行くんですか?」
私がベッドの上で寝転がりながら聞くと
「ああ!仕事の前に軽く走って来る!」
煉獄さんは元気いっぱいに答えた。
煉獄さんは毎朝、日課のランニングを欠かさないそうだ。
自宅から公園まで走り、公園を何周かして、また自宅まで走る。
その後、朝ご飯を食べて、学園に出勤している。
休みの日は山まで車で行き、山から山を超えて走り、また車まで戻って家まで帰って来るトレーニングをする。
なんて言う競技だったかな…トライアスロン、いやちがうな…聞いても忘れそうになる…トレイルランニング!
煉獄さんは山を走る、その競技に夢中なんだそうだ。
「妹子ちゃん、明日の夜は空いてる?」
「はい、仕事が終わったら空いてます。」
「じゃあ、学園のプールに泳ぎに来ないか?宇髄先生が、水泳部の顧問なんだが、明日は部活もないし、一緒に泳ごうって言ってる。」
「プールですか?」
「うん。学園のプールは競技用だから楽しいぞ!綺麗だし。妹子ちゃんが水泳部だったと話したら、宇髄先生が喜んで、君の泳ぎが見たいと言ってるんだ。どう?」
煉獄さんは楽しそうに言った。
確かに、私は水泳部だったけど、それは中学生の時までで、高校に入ったら興味が、おしゃれやお菓子作り、友達との遊びに変わって、部活には入らなかった。
宇髄先生にお見せできるような泳ぎなんて、出来るわけなかった。
「あ、あの…私が水泳を真面目にやっていたのは中学生の時の事でして…。今はもう泳げるかも分からない状況です…。」
初めに言っておかないと、期待されて泳げない場合、情けない姿を大好きな煉獄さんの前で披露してしまう…。