第2章 さつま芋タルトのお兄さん
午後4時を過ぎて、そろそろ帰宅の人達がお店に寄ってくれる時間だ。
鬼滅学園の女の子達もやって来た。
話に聞いていた通り、個性的な子が沢山いる。
中でもフランスパンをくわえている子もいて面白い。
ケーキをいくつか選んで買ってくれるんだけど、喋ってもパンが口から落ちないのは不思議だった。
とっても可愛い子で、嬉しそうにケーキを選んでる顔をずっと見ていたくなる子だった。
「鬼滅学園の生徒さんですか?パンはよく落ちないね」
と聞いたら、秘訣があるのだそうだ。
「お姉さんもやってみて! 」
と言ったので、細いパンを選んで口に挟んでみる。慣れないからパンは口からポロッと落ちて、私は慌てて手で受け止めた。
「毎日してればできるようになるよ! 」
と彼女は言うけど、毎日してたら私の場合は仕事にかなり支障が出てきそうだ。
「そっかあ、何事も1日にしてならずだよね」
「そうだよ。お姉さんも練習してね」
とても可愛いく笑う子だ。
そろそろ閉店に近づいて来て、商品ももうあとわずかになった夕刻
お店の木のドアが開いた。
「いらっしゃいませ! 」
声をかけて、入って来た人を見てドキリとした。
コンビニで会ったお兄さんだった。
お兄さんは、白いシャツの胸のボタンを一つ外してネクタイをしていた。シャツの腕は途中まで捲り上げていて、シャツを着ていても
厚い胸板と、上腕の筋肉が美しいのが感じられる。
スラックスをスタイルの良さでスッキリと穿きこなしていて、
全身から爽やかな色気を振りまいていた。
私の方を見て軽く微笑むと、近づいて来た。
「こんにちは!誕生日のケーキをお願いします!!」
滑舌の良い声で、はきはき話す。覇気がある。
「あっ、はい!ありがとうございます。
ケーキの種類はお決まりですか?」
私は注文用紙を片手に、ボールペンを探す。
あれ、あれ?ない。胸ポケットに挿してるはずなんだけど、ない。
あっ、さっきお兄ちゃんに貸したんだ。
慌てて、レジ前に取りに行こうとしたら
「ペンならある。これを使って下さい! 」
艶のある優しい声で言いながら、その人は自分の胸のポケットから
ペンを取り出して私に差し出した。
ちょっとお高そうなブランドの万年筆だ。
せっかくなので、お借りする事にした。
お兄さんの胸にくっついていたせいか、ほんのりと温かい。