第4章 抱擁
連日の猛暑続きでアイスクリームみたいに溶けそうになっていたあたしだったが、一気にエネルギーがみなぎる。五条家のお盆の行事に合わせて悟くんが高専から帰省するのだ。
悟くんが帰ってくる!
悟くんが帰ってくる!!
あたしは何か気持ちが落ち着かなくて、お母様の手伝いをする。床の間を拭いたり、届いたお花や供物を運んだり、食事の準備を手伝ったり、お座布団を出してきたり。屋敷の中は大忙しだ。奥様の側で仕えている上女中の方からも用事を頼まれた。
「角帯がないようだから、夕凪お願い」
「はい」
角帯とは幅の狭いしっかりとした帯のこと。悟くんが和装する時の帯。あれか! あたしは仕舞われている桐の箪笥からそれを出して届ける。
「夕凪はフットワーク軽いし何でも知ってるから助かるわ、ありがとう」
五条家のお屋敷に来て10年。それだけ住んでいればだいたいのお手伝いは出来る。お母様のやる事もよく見ていたし。
なんだかんだ朝から色んな事を手伝って、お屋敷内を走り回って、すっごい汗をかいてしまった。でも気持ちいい汗。あたしはシャワーで汗を流して、悟くんが戻る夕刻までちょっとひと休みすることにした。