第3章 使用人
五条の屋敷を出て高専に向かおうとしていた。
明日、学長と面談だ。
おろしたての制服を着て運転手が車で俺を高専まで運ぶ。車窓が気になり身体を少し半身にした時、胸の辺りからカサとした音が聞こえた。紙がこすれるような音。
制服の上着を脱いで内側を確認すると左胸に小さな……なんだこれは、お守り? のような布袋が縫い付けられていて――それは夕凪の呪力が練り込まれたものだとわかる。
俺の心臓を守るように防壁のように呪力が何重にも重なり練り込まれていた。
小さなお守りだが、これだけ呪力を繊細に練り込むには毎日1時間やっても3ヶ月はかかっただろう。そういや、このところ夕凪の部屋の電気は夜遅くまで付いていた。俺と口を利かなくなってからもずっと、だ。
……てっきりクソ真面目に勉強でもしてんのかと俺は思ってた。
お守りのほんのわずかな隙間から、折り畳んだ薄い紙が見えて俺はそっとそれを取り出し広げる。
カサッ。
……何か書かれてる。
文字が見えてきた。
「悟くん死なないで」
夕凪――
心の中で名を呼ぶ。
ごめん。つまらねー嫉妬して、携帯壊して、これまでいっぱい泣かせて、最後は口も利かずに出てきてごめん。
せきとめていた水が一気に流れ出すように愛しい気持ちが心の中になだれ込む。溢れ出してきて止めようにも止められない。
高専はもう、すぐそこなのに、今すぐ屋敷に戻って会いたい気持ちに駆られる。湧き出てくるこの想いを、俺はもう誤魔化すことが出来なかった。
俺は……
俺は、
尊夕凪のことが……
好きだった。