第3章 使用人
「悟? さーとーるっ!」
隣から声が聞こえて我に返った。後ろを振り返ったまま夕凪を見てる俺の腕を彼女がしかめっ面で引っ張ってる。
夕凪は学校では呪力量を非術師と同じレベルにコントロールしている。とはいえ、あいつに気付かないなんて六眼も鈍ったもんだ。
今まで気に留めた事もなかったが、夕凪の周りをよく見てみると女友達だけでなく、野郎もそこそこ集まっている。やたら近い距離で話しかけてる。
男のくせにニヤニヤしやがってきっしょ!
夕凪はデフォルト運転でそれほど相手にしてねーけど。け、ざまあみろ。夕凪はそんな下心丸出しで近づいていって簡単に落ちる女じゃねーんだよ。ま、別にあいつに男が出来たところで俺には関係ないんだけど。
でも、帰りが遅いのはそれとは別問題。物騒な事件もある……呪術を使えるから身を守るくらいはたやすいか。でもまあ奇襲にたちうち出来ないかもしんねーだろ?
とにかく! 若い女が暗くならねーと家に帰ってこないなんていうのはよくない。
ほぼ毎日だしな。この辺で注意しとくか! 俺はわざわざ使用人用の玄関まで行って、ただいまーって帰宅した夕凪を迎え入れる。
「なぁ、最近帰るの遅くねー?」
「うっざ」
なんっつったーー?? なめてんのか! んだよ、その言葉遣い。その顔!
「あ゛あ! なんだその態度!? こっちは心配してやってんのに」
「心配いりません、呪術使えるし。帰ってくるの遅いのはそっちでしょ? 高校の女先輩とカラオケ行った後、深夜まで帰ってこなかったじゃん。どこ行ってたのかなぁ? 一体何してたのかなぁ?」
「へぇー、気になんの?」
「全く」
俺を無視するみたいに靴脱いで「お母様ー、お腹すいたー」って奥の部屋へ進もうとする。マジで呪力捻りそうになった。胸元掴み上げて泣かしてやろうかとも思った。けど、その握られた拳が夕凪に向くことはなかった。
俺が見たいのは夕凪の泣き顔や怒った顔じゃない。憤りはしばらく収まらなかったが夕凪の態度を許すことにした。