第13章 幸せのピース
というわけで、五条の正門に車をピタッと横付けさせた。宝を抱っこした夕凪と一緒に正門の前に降り立つ。
夕凪がいなくなってからの数ヶ月間、平常心を装いながらどれだけ重たい気持ちで、この門をくぐったことか。
毎週、五条の屋敷へと足を運ぶ
「四国には夕凪の痕跡はなかった」
彼女の捜索状況を本家に伝える。落胆する当主と母親。
「けど絶対見っけるから」
そんな風に言葉を残して、またこの門を出て行く。日本のあちこちに飛ぶ。使用人たちは捜索してる事を知らねーから、普通に任務でも行くんだろうと、送り出す。
僕も高専の制服着てそんな感じで出て行く。時折、夕凪の母親の不安そうな視線を背中に感じながら。
けど、今日はひとりじゃねぇ。夕凪が一緒だ。ここまで連れ戻す途中、何度も彼女の顔を見た。どっかに消えてしまわねーかって、突然またいなくならねーかって、そんなこと起きるわけないだろって思いながらも常に夕凪の呪力を気取るよう意識した。
あんま態度には出てねーと思うけど、僕は夕凪をやっと五条の屋敷に連れて帰れた喜びと安堵感で胸がいっぱいだったりする。
「そろそろ行くぞ」
先に門に入ろうと足を踏み出すと袖を引かれた。
「どーした?」
「なんて言って戻ればいいのかな」
困った顔で彼女が僕に尋ねるから、いつも通りただいまでいいと答える。僕も付いてるし心配はいらない。
それでもなかなか一歩が踏み出せないようだから、もう一度、夕凪は遺言に書かれた婚約者だと、夕凪がいなきゃ僕は誰と婚約するんだと、彼女の背中を強く押した。
頷いたけど、顔はいまいち晴れねー。「でも、この子はどう説明すれば」って呟く。相変わらずの真面目ちゃんだ。夕凪はひとりで妊娠したわけじゃないのに。