第13章 幸せのピース
改めて悟くんと一緒に当主と奥様の前に立つ。あたしの緊張はMAXで心臓が破裂しそう。悟くんが先に口を開いた。
「ギリギリになったけどこれでやっと婚約の儀、進めれるから。夕凪も遺言書に同意して署名してる。婚約者は遺言通り、尊夕凪で」
「あの、この度はあたしの失態で、五条家に迷惑をかけてしまって本当に申し訳ありませんでした」
悟くんが迎えに来てくれたとはいうものの、本当にここに立っていていいものかと、五条家に戻って来てよかったのかとわからなくなる。子供まで産んじゃって、勝手極まりない行動だ。
次の瞬間、あたしはふわっと優しく包み込まれた。かぐわしい薔薇の香りがすぐ側から漂う。奥様の香りだ。あたしと宝を抱きしめてくださっている。こんな風に抱きしめられたのは初めて。
「心配したわ。ずっと後悔してたの。術式で懐妊を診た時、すぐに呼び止めてなぎちゃんに付き添えばよかったって。ひとりで五条の子供を産むなんて、さぞかし不安で心細かったでしょ」
まるで本当の母親みたいに、抱きしめながらあたしの背中を撫でてくださる。
さっきから我慢してたけど、背中を優しくさすられると、ひとりポツンと妊娠日記を付けて、お腹の赤ちゃんに話しかけ、悟くんに会いたくなると空を見上げて六眼を重ね合わせていた日々を思い出し、とうとう涙が溢れ出してきてしまった。
「悟がもたもたしてたからよ。ほっんと、どうしようもないわね、こんなに泣かして」
「はいはい。見つけるのが遅くてすみませんでした。泣いていいなら僕も泣くけど」
「あなたの涙は見たくないから、なぎちゃんの涙を幸せに変えてあげなさいよ」
奥様と悟くんの掛け合いは変わっていなくて、いつもどこか可笑しくて、あたしの涙は、今まさに幸せへと変化する。
そんなあたしを見て奥様も安心したのか、関心は宝の方へと移った。抱かせて欲しいというので、横抱きのまま奥様に渡す。