第13章 幸せのピース
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ドクッ、ドクッ、ドクッ、ドクッ。
さっきから心臓が太鼓の音みたいに体中に響いて鳴りっぱなしだ。今またその鼓動の間隔が少し縮まった。
目にしているのは五条家の正門。二度とここに戻ることはないだろうと、お屋敷を去る前に一度だけ振り返り、さよならのお辞儀をした場所だ。
あれから9ヶ月。
悟くんに連れられて、再びここに戻ってきた。腕には生後2ヶ月の宝を抱いている。
「そろそろ入るぞ」
そう言うと悟くんは、門の前で立ちすくんでいるあたしを先導するように歩き出した。まだ心の準備が出来ていないあたしは、慌てて彼の袖をぐいっと引く。引っ張られて少しだけ半身になった彼は、そのまま後ろを振り返った。
「どーした?」
「なんて言って戻ればいいのかな」
「いつもと同じでいいんだよ」
「……でも」
「ここはオマエが育った家みてぇなもんだろ? いつも元気な声で言ってたろ」
「ただいま、って?」
「そ、みんなオマエをお待ちかねだ」
首を縦に振ってはみたものの、なかなか一歩が踏み出せない。遺言書を盗み見して勘違いした結果、突然いなくなって、ただでさえ忙しい五条悟に日本中を捜索させてしまった。相談もせずに勝手に彼の子供を産んで飄々と戻ってくるなんて、あまりに面の皮が厚すぎる。