第10章 別れ
1枚の書を見せる。それは夕凪の机の引き出しに入っていた、千切られたノートの1ページ。書かれている日付は去年の秋だ。それはまだ夕凪が遺言書を見てしまう前。
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五条悟
五条夕凪
末永く幸せでいれますように。
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「これが夕凪の願いだよ。彼女の本音。夕凪は楽しみに遺言の内容を聞かされるのを待ってたんだ。婚約者は自分かもしれないって僕との未来を想像して」
夕凪の母親が書を見て口に手を当てる。
「僕の願いも彼女と同じだから。子供も夕凪も無事に五条家に呼び戻す」
夕凪の母親の目からは涙が溢れて嗚咽しそうなのをこらえているようだった。
「夕凪のことお願いします」って言って、頭を下げてる夕凪の母親に、僕も頭を下げて離れの外に出た。
ふと空を見上げると下弦の月が夜の帳を照らしている。夕凪も今、同じ月を、夜空を見上げているような気がした。
――どこにいんだよ、夕凪。
呪力、術式、残穢、何かひとつでも六眼が感知すれば居場所を特定できる。絶対見つけると空に浮かぶ月に向かって誓う。
婚約の儀までに見つけて願い叶えてやるからな。待ってろよ、夕凪。
ひとりでさみしい思いしてんだろ? 出て行ったはいいけど、心細くなって僕の名前呼んでんだろ?「悟くん」って。
オマエと子供だけで暮らすなんてそんな生活させねぇから。そんなの望んでねーだろ。手紙に無下限の絶え間ない術式相伝を願ってるって書いてたけど、なら相手はオマエしか、夕凪しかいねぇんだよ。
夕凪はいつも僕の側にいてくれたけど、今度は僕が夕凪の側にいくから。もう少しだけ待ってて……。すぐ行くから待ってて。
どこに逃げたのか知んねぇけど、最強舐めんなよ、夕凪!
軽く笑って僕は高専の寮へと向かった。