第10章 別れ
母親の話を聞いてるうちに、夕凪の行動の理由が見えてきた。パーティーの時にうずくまってた夕凪を見つけた母親が心配で、術式で身体を診たらしい。夕凪は大丈夫って言って走り去ったって。妊娠を知られたと思ったに違いない。
それであんな急に出て行ったのか。子供ができたから僕の側にいれないって思って。婚約者は君だったから、僕は子供が出来てもそん時はそん時でいっかって思ってた。じゃなきゃ、んな無責任なことしねーよ。
夕凪は誰にも言わずにひとりでそれを抱えてたのか? 僕の子供がお腹にいるのに、婚約者候補が集まるパーティー会場に手伝いに来てたの? どんな気持ちであの菓子折り運んでたんだよ。手紙は? 素敵な人選んでってなに言ってんの。
夕凪が妊娠してることに全く気づかなかった。母親が今まで言わなかったのは、デリケートな事だからって。2人でもう一度話し合ってると思っていたらしい。だけど、夕凪は親戚のところに行ってしまうし、話が進んでるようにも見えなくて、我慢出来ずに僕に直接尋ねに来たって。
「なぎちゃんを早く迎えに行って悟。婚約者はなぎちゃんしかいないでしょ。子供は遺言どおり無下限呪術を継承してるでしょ」
「あぁ、そうだろうな……けど、連れ戻す事が出来ない」
「なんでよ」
「いなくなった」
「え? 今なんて言ったの?」
今度は母親が驚いて、鳩が豆鉄砲を食ったような顔してる。だよな、そうなるよな。夕凪の事を大切に思ってるのは母親も同じだ。体のことを心配して、早く探さないとって言ってる。
「五条家を集めて分家も合わせてなぎちゃんを探しましょ」
母親が僕に促す。僕もそうしたい。持ってる全ての権限を使って今すぐ夕凪を探し出したい。けど……
「もう少しだけ待ってくんねぇ? 気になる事がある」
母親はじれったいって感じで、気に入らねぇ顔してたけど一旦、部屋から出てもらった。