第2章 ただそれだけ
屋敷にいれば、嫌でも遊び相手は目に入ってくる。時々、夕凪はしゅんとしていた。誰にもわかってもらえねーような顔して。俺みたいにひとりぼっちみたいな顔して。
夕凪は泣き虫だからそれに耐えれねーだろうと思ってたんだけど、結構踏んばる。我慢する。理屈をこねず。誰にも求めず。
別にそんなのどうでもいいし、ほっといたっていいんだけど。でもそんな時は俺しかいねーんだろなーって。
仕方ないから、ひとりぼっちにならないようにしてやった。面倒みてやった。俺の遊び相手だし。
俺はなんでそんな事したんだ?
誰に頼まれたわけでもねーのに。俺はなんでコイツの命を助けた? 遊び相手なんてまた次のやつ、呼べばいいのに。
さっき重ねた柔らかい唇の感触をふと思い出す。考えるのは好きじゃないが、自問して出てきた答えはひとつしかなかった。
――夕凪だから。それだけ
「……夕凪さ、次余計なことしたら殺すから……ま、でもサンキュ。今回はオマエのおかげってことにしとく」
顔を見ると夕凪は少し笑ってるような気がした。笑ってるっていうか、はにかんでるっていうか。
そんな彼女を見た時、俺の心のどこかに温かい何かが流れて、ま、そんなのすぐに消えてなくなったんだけど、でも俺はひとりぼっちだっていうのはこの時から不思議と思わなくなった。
夕凪は無心で俺に命をかけた。俺と夕凪はきっと同じ理由でこれからも一緒にいる。理屈や正論じゃない何か。