第10章 別れ
「ハハ、悟はあんなに遺言書を忌み嫌っていたのに今では随分と変わったもんだな」
「僕は最初から従うつもりだったけど」
「笑わせるな。では、あとは夕凪か……。この1年黙っていた事情を話して同意してくれるといいが」
「大丈夫でしょ。ずっと幸せそうにしてたじゃん」
「そうだな。それにしても悟が五条の遺言の偉大さをわかってくれて嬉しいよ」
「僕を誰だと思ってんの。ささっと同意して署名したでしょ」
明るい父子の笑い声が術式を伝って聞こえる。五条家を受け継ぐもの同士の息のあった会話。
「遺言書に従う、同意する」
確かに悟くんはそう言った。にわかに信じられないけど、この波形は愛しい人の声。間違いようがない。
それに遺言書の直筆の署名はあたしも見ている。あんなに遺言を嫌がっていたのに、どうしてそうなったの?
悟くんが遺言を開示された日、あたしの携帯に連絡をくれたのは随分と遅い時間になってからだった。その間、本家と話し合いをして、冷静に五条家の未来を考えたのかもしれない。次期当主としての自覚を促され、婚約者に対する考え方が変わったのかもしれない。
あたしのことは?
本家とすでに話し合い済みなの?
さっき、あたしの事、なんて言ってたっけ?