第10章 別れ
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高専に戻っても、いつ当主から声がかかるかと思うと気が気でない。その上、奥様からの呼び出しもここ最近増えていたから、思い切って先生にお願いして、悟くんと同様、あたしも五条家の屋敷から任務に行かせてもらうことにした。
高専の方も五条家がバタバタしているのは知っていたようで、寮に戻るのはすべて落ち着いてからでいいと言う。
しばらく五条家に留まることになった。高専に通わないというだけで呪術師を辞めたわけではない。呪術を使わないでいると勘が鈍りそうで不安になる。
数は少ないとはいえ、呪霊討伐の任務もあるし術式が鈍らないようにしなくてはいけない。
空き時間は五条のお屋敷で少し訓練する。といっても相手がいないから実践や体術が出来るわけではない。悟くんは祓いまくっていて忙しいし。
代わりにこれまで高専で実験していたある術式を、お屋敷で試してみることにした。五条のお屋敷は広くてたくさんの人がいるから、この実験にちょうどいい。
あたしの術式は空気中の原子や分子を呪力を使って操るものなんだけど、高専で実習を重ねているうちに、空気中の音の振動を拾うことが出来るようになった。
一定の距離内であれば、音波を感知できる。副産物的なものだ。必殺的な効果はないけど、高度なコミュ力を持った呪霊や呪詛師などと戦闘する際に、敵の音を拾えれば、戦いが有利に運べる気がする。
実験を続けると、音波の中で人間の声だけ絞れるようになった。まだまだ聞き取りにくいところはあるけれど、同じ人の声はサンプリングで声紋が脳に残るから個人まで特定できる。
高専だと七海、家入先輩はその対象だ。悟くんは言うまでもない。空気中の声音の振動で直径100メートル以内は拾えるようになった。
五条のお屋敷はいろんな使用人の声が聞こえる。高い声、低い声、それぞれ波形が異なっていて、そのデータの積み重ねで男女の判別も可能になりそう。
時間を見つけてはお屋敷内をぐるぐるし、術式を試し、実際の人物と声紋を確認しながら術式を極めていく。