第10章 別れ
遺言書には ”原則、側妻は認めない” って書いてあった。
――捨てられるのかな。
不安がよぎる。でも悟くんは遺言の事を「問題ない」って言ってた。きっと何か策を講じてるはず。
あたしのことも考えてくれてるはず。悟くんの言葉を思い出してこの遺言書を、キャビネットを閉じることにした。
もう一度写真がどこかに落ちていないかを確認し、小箱をキャビネットとは別の棚に収納する。部屋を出ようとすると誰かが来る気配がして、慌ててあたしは悟くんの寝室に隠れた。
悟くんと長老が入ってきたようで話し声が僅かに聞こえる。キャビネットが開く音がする。
「拇印を押すとこはここであってる?」
「最後のご署名の後でございます」
「んー。はい、これでいい?」
「坊っちゃん、念のため確認しますが、遺言の事は――」
「誰にも話してねぇよ」
補聴器を調整したのか長老との会話がスムーズだ。そして、やはり取りに来たというのはあの巻物、遺言書だったよう。
しばらくするとキャビネットが閉じられる音がして、長老は悟くんの部屋から去って行った。悟くんの呪力が寝室に近づいて来て、思わずベッドに倒れこんで目を閉じる。悟くんはあたしがここにいるのは気取ってるはず。
ガチャっと寝室の扉が開く。